増える日本人のイスラム入信

世界三大宗教の一つで、11億人以上の信者がいるといわれるイスラム教(イスラーム)だが、私たちの日常生活の場で接する機会は少ない。 一日何回か礼拝をし、豚肉を食べず、ジハード(聖戦)という考え方があるといった、断片的で貧困な知識しかない。ところが、ここ2-3年、イスラム教に入信する日本人が増えているという。 日本でのイスラム教の現状を紹介したい。 (内藤麻里子)

 

コーラン講座で受講 

東京都豊島区のJR大塚駅から歩いて5分ほどのところに大塚モスクがある。毎週月曜日午後7時、コーラン(クルアーン)講座が開かれている。7時をまわると受講者が徐々に集まってくる。7時15分ごろ礼拝の時間を告げる合図、アザーンの声が館内放送で響き渡り、夜の礼拝をするために礼拝室へ入っていく。祈りを指導するイマームと共に祈ること30-40分、それから講座が始まった。この日受講したのは日本人の20代から40代の男女6人。ムスリム(男性信者)、ムスリマ(女性信者)のほか、入信していない男性が一人いた。

イスラムに入信するにはイスラム教徒2人の立ち会いのもとに、「アッラーのほかに神なし/マホメツトは神の御使いなり」の意味のアラビア語で信仰告白するだけでいい。大塚モスクを主宰するジャパン・イスラミック・トラストの理事、ハルーン・アーマッド・クルーシさんによると、10年ほど前から少しずつ日本人の信者が増え、ここ2-3年は特に増えているという。「昨年は、一日一人の日本人が入信した印象があるが、今年は一日二人程度というように増えるのではないか」と予想する。

では、日本人のムスリム・ムスリマはどのくらいいるのか。現在のところ信頼できる統計がないのが実情だ。イスラムの宗教法人イスラミックセンター・ジャパン(世田谷区大原)では、5万人という。同じく、宗教法人日本イスラム協会(渋谷区代々木)は、5000人としている。とにかくどちらもここ数年、穏やかだが右肩上がりの信者数になっていると口をそろえる。

 

ムスリムの姿に触れ

日本人の入信はおよそ三つのケースがある。第一に、10年ほど前から留学や仕事でイランやパキスタンなどから来日する海外のイスラム教徒が増えたこと、日本人が海外で働くようになり、結婚によって入信したケース。イスラムでは、結婚するにはイスラム教徒同士でなくてはならないためだ。結婚するカップルは、年間200組ほどで、うち9割が少なくとも片方が日本人だという。第二は、結婚によって生まれた二世。

第三に、自発的に入信するケース。観光や日本各地にできたモスクなど、礼拝所の近辺でムスリムの姿に触れて入信する人々が多い。モスクは神戸、東京、名古屋など6-7カ所にあり、もっと簡便な礼拝所だと全国に50カ所、金曜日に行う集団礼拝をする場所だと200カ所以上といわれている。

イスラムのどこが彼らを引きつけるのか。

横浜市に住む37歳会社員の男性は、仕事でタイに駐在中にムスリマと知り合った。「イスラムを勉強して納得できたら結婚する。納得できなかったら結婚しないつもりだった」と振り返る。1998年4月日本に戻り、今まで都合のいいときに神や仏を拝んで、神が複数いることを容認する日本の宗教風土に納得できなかった自分に、イスラムが答えを与えてくれたという。その結果、昨年2月に入信し、結婚もした。「唯一神アッラーと自分との関係を考える宗教はなじみやすかった」と語る。

 

信仰の魅力にひかれ

イスラムには聖職者がいないことも魅力の一つのようだ。千葉市在住の28歳の男性は、小学生の頃から宗教に興味はあった。「本当の神についての情報は聖職者がこうだというものではなく、神から直接くるものだと思っていた」ことが入信の大きなきっかけだという。

ニューヨークでムスリムの姿に触れ、98年に入信した、ファティマ飯島さんは、「聖職者ではない普通の人々が宗教的イメージを強く持った日常生活をしていることが好ましかった。他の宗教ではなかなか見られない事でしょう」と指摘する。

共同体(ウンマ)を大切にする、イスラムの同胞意識がいいという意見もある。東京に住む、アリファ・ハッサン広田さんは97年に入信したが、「同じ宗教というだけで、国や顔が違っても心が通じ合うものがある点がすごい」と評価する。

イスラム法の中央大学教授、真田氏は、「イスラムは神との契約ですから、問題は神にいかに従うかということで教えがわかりやすく、生きやすい、しかも、ウンマなくして個人はない構造が、現代人の疎外感を救うなど、日本に流布している西欧思想にはない考え方が見直されているのでしょう」と分析する。

古くからある教えではあるが、知られていない分だけ新しいイスラムが、一つの考え方として現代日本人に受け入れられ始めているのだ。

毎日新聞 2000年 (平成12年)2月4日 (金)より転載 

出典:http://islamcenter.or.jp/p>